ロゴをもらったら PNG だった。名刺に大きく刷りたいのに、拡大するとぼやける。
この「PNG しかない」問題は地味に多くて、そのたびに Illustrator を開いて手でトレースするか、有料の変換サービスに画像をアップロードするかの二択でした。前者は面倒、後者は他人のサーバーにロゴを渡すのが気持ち悪い。
VecTrace は、画像をブラウザの中だけで SVG(ベクター画像)に変換するツールです。何もインストールせず、画像も外に出さず、拡大しても劣化しない SVG を作ります。
#🎯 ラスターとベクターの違い
まず用語を整理します。
| ラスター (PNG/JPG) | ベクター (SVG) | |
|---|---|---|
| 中身 | 色のついた点の集まり | 線・曲線・塗りの数式 |
| 拡大 | ぼやける・ギザギザ | 何倍でもくっきり |
| 向くもの | 写真 | ロゴ・アイコン・図形 |
ロゴやアイコンは本来ベクターであるべきものです。ところが実際に手元にあるのは PNG だけ、というケースが多い。VecTrace がやるのは、点の集まりを見て、そこにある線や面を推測し、数式で描き直すことです。これを「トレース」と呼びます。
#🏗️ 技術選定:imagetracerjs
トレースはゼロから書くと大仕事です。色の量子化、エッジの追跡、曲線の近似——どれも一つの研究テーマになるくらいの内容があります。
そこで、この分野で枯れている imagetracerjs を使いました。andras jankovics 氏によるライブラリで、大きく 3 段階の処理をやってくれます。
- 色量子化 — 画像の色を指定数のパレットに減らす(例: 数万色 → 8 色)
- エッジ追跡 — 同じ色の領域の境界線を辿る
- ベジェ近似 — 辿った境界を滑らかな曲線(ベジェ曲線)で近似する
有名な potrace(白黒特化)と違い、imagetracerjs はカラー画像をそのまま多色 SVG にできるのが選定理由でした。
これも他のサービス(pitch-flip、py-pad)と同じく、CDN からスクリプトタグで読み込む方式です。
const TRACER_CDN = "https://cdn.jsdelivr.net/npm/imagetracerjs@1.2.6/imagetracer_v1.2.6.js"
function loadTracer: Promise<ImageTracerLike> {
if (typeof window !== "undefined" && window.ImageTracer) {
return Promise.resolve(window.ImageTracer)
}
if (!loadPromise) {
loadPromise = new Promise<ImageTracerLike>((resolve, reject) => {
const s = document.createElement("script")
s.src = TRACER_CDN
s.async = true
s.dataset.imagetracer = "1"
s.onload = => {
if (window.ImageTracer) resolve(window.ImageTracer)
else reject(new Error("ImageTracer unavailable after load"))
}
s.onerror = => reject(new Error("Failed to load imagetracerjs"))
document.head.appendChild(s)
})
}
return loadPromise
}loadPromise を保持して、初回だけ読み込む形。バンドルには含めていません。
#🎚️ プリセットが本体
imagetracerjs は調整パラメータが多く、生で触ると難しいライブラリです。numberofcolors(色数)、pathomit(小さすぎるパスを捨てる閾値)、ltres / qtres(直線・曲線の許容誤差)、blurradius(前処理のぼかし)……。
これを全部ユーザーに委ねると、たいていの人は最初の 1 枚で挫折します。そこで、用途別に効くパラメータの組を「プリセット」として固めました。
export const PRESETS: TracePreset[] = [
{
id: "logo", jp: "ロゴ / アイコン",
oneLine: "少色 で くっきり。 ロゴ や アイコン の SVG 化 に 最適",
options: { numberofcolors: 8, pathomit: 8, ltres: 1, qtres: 1, blurradius: 0, ... },
},
{
id: "photo", jp: "写真",
oneLine: "多色 + 軽い ぼかし。 写真 を ポスター 風 ベクター に",
options: { numberofcolors: 32, pathomit: 4, ltres: 1, qtres: 1, blurradius: 2, ... },
},
{
id: "poster", jp: "ポスター化",
oneLine: "色 を 大胆 に 削った シルクスクリーン 風 の 面 構成",
options: { numberofcolors: 6, pathomit: 12, ltres: 1.5, qtres: 1.5, blurradius: 3, ... },
},
{
id: "sketch", jp: "線画 (白黒)",
oneLine: "白黒 2 値 で 輪郭 を 抽出。 塗り絵 や ステンシル に",
options: { numberofcolors: 2, pathomit: 6, ... },
},
]プリセットの設計思想はシンプルで、色数 (numberofcolors) がすべての起点です。
- ロゴは色が少なく境界がはっきりしているので 8 色、ぼかしなし
- 写真は階調が豊かなので 32 色、軽くぼかして色の境界を整理
- ポスター化はあえて 6 色まで削り、面を大胆にまとめる
- 線画は 2 色(白黒)にして輪郭だけを取り出す
色数を減らすほど「面」がまとまり、SVG のパスも減って軽くなる。増やすほど元画像に近づくが、パスが増えてファイルも重くなる。このトレードオフを、ユーザーが数値ではなく「ロゴ」「写真」という言葉で選べるようにしたのがプリセットです。
#🔄 変換そのものは短い
パラメータさえ決まれば、変換は一発です。
export async function traceToSvg(imgd: ImageData, opts: TraceOptions): Promise<TraceResult> {
const tracer = await loadTracer
const t0 = performance.now
const svg = tracer.imagedataToSVG(imgd, {
numberofcolors: opts.numberofcolors,
pathomit: opts.pathomit,
ltres: opts.ltres,
qtres: opts.qtres,
blurradius: opts.blurradius,
strokewidth: opts.strokewidth,
scale: opts.scale,
roundcoords: 1,
viewbox: true,
desc: false,
})
return { svg, ms: Math.round(performance.now - t0), bytes: new Blob([svg]).size }
}Canvas から取った ImageData を渡すと、SVG 文字列が返ってきます。viewbox: true にしているのは、SVG に viewBox 属性を持たせて拡大縮小を効かせるため。roundcoords: 1 で座標を丸めて、無駄に長い小数を削りファイルを軽くしています。desc: false はライブラリが埋める説明コメントを消す指定です。
処理時間とバイト数を返しているのは、「何色にすると何 KB になるか」がその場で分かるようにするため。ベクター化は色数とファイルサイズが直結するので、この数字が見えると調整しやすくなります。
#😓 苦労したところ
#写真は「そのまま」だと破綻する
写真をトレースすると、階調のグラデーション部分が細かい斑(まだら)だらけの SVG になり、かえって元より汚くなります。しかもパスが数万本に膨れてファイルが重い。
対策が blurradius(前処理のぼかし)です。トレース前に軽くぼかすと、細かいノイズが均されて色の面がまとまり、パスが激減します。写真プリセットで blurradius: 2、ポスター化で 3 を入れているのはこのため。ベクター化の質は、実はトレースそのものより前処理で決まるというのが、作ってみて一番の発見でした。
写真を写真らしく残したいなら、そもそもベクター化は向いていません。VecTrace の写真プリセットは「ポスター風にする」ものだと割り切って、UI でもそう案内しています。
#色数を上げれば良い、わけではない
直感的には「色を増やせば元画像に近づいて良い」と思いがちですが、実際は色数を上げるとパスが爆発的に増え、SVG が PNG より重くなることすらあります。ベクターにする意味は「軽くて拡大に強い」ことなので、重くなったら本末転倒です。
なので各プリセットの色数は「用途として十分な最小値」に寄せています。ロゴが 8 色なのは、ほとんどのロゴが実際には数色で描かれているからで、それ以上は誤差を拾うだけです。
#白黒線画の閾値
線画プリセット(2 色)は塗り絵やステンシル用途を想定していますが、元画像のコントラストが低いと、線がかすれたり潰れたりします。ここは前処理だけでは吸収しきれず、「元画像のコントラストが高いほどきれいに出る」ことを案内に添えるにとどめました。何でも自動で完璧にはならない、という正直さは残すことにしています。
#🔭 今後の拡張
- 元画像のプレビュー比較 — トレース前後を並べて、色数スライダーでリアルタイムに変化を見る
- パス数・サイズの内訳表示 — どの色がパスを増やしているかを見せる
- 背景の自動透過 — 白背景を検出して透明にする(ロゴ用途で需要が大きい)
- 単色化オプション — 抽出した形を任意の 1 色で塗り直す(アイコンのシルエット化)
#💡 このサービスから言えること
ライブラリの難しさは、プリセットで隠せる。 imagetracerjs は生で触ると調整項目が多くて挫折するライブラリですが、用途ごとに効く値を固めてしまえば、ユーザーは「ロゴ」「写真」と選ぶだけで済みます。パラメータを全部見せるのが親切とは限らない——むしろ、良い初期値を用意して選択肢を絞るほうが使われる、というのは他のサービスにも通じる学びでした。
もうひとつは前処理の効きです。トレードオフの核心(色数とファイルサイズ、ぼかしと質)がどこにあるかを掴むと、パラメータの意味が腑に落ちます。変換処理の質は、変換本体より前後の下ごしらえで決まることが多い。 画像を扱うサービスを作るたびに、この感覚は強くなっています。
そして、ロゴのような「その人にとって大事な画像」を扱う以上、ブラウザ内で完結して外に送らないという設計は、機能ではなく信頼の前提です。変換したい画像を他人のサーバーに渡さなくていい、というだけで選ぶ理由になる場面は確かにあります。
[ ./next_action ]
読んだら、 VecTrace を実際に動かす。
この開発ログは VecTrace をどう作ったかの記録です。 読み終わったらそのままサービス本体へ戻って、 実物で価値を確かめてください。